

■第二回 マレー半島(3)
宿泊地を一歩出ると、そこは1億3千年前から手つかずの密林である。コースの小径以外はまったくの藪で刺のある植物が繁茂して入ることはできない。船で川を遡る時にも見かけたのだが、緑の丸葉でクテナンテと思われる植物があった。高さ3mにもなりジャングルの縁に多く植生している。カラテア属、マランタ属などのクズウコン科は植物図書によっては、熱帯アメリカが原生地と記載されているが、マレー半島のジャングルの中では、これらの属と思われるものに何度も出喰わしている。
クズウコン科はアメリカだけの特産植物ではないので、この点気をつけなければならない。
トレベシア(Trevesia bruckii)がヤツデ状の果実を垂らしている。ヤツデは頂生で植物の頂上に立つように成るが、トレベシアは下垂し、下部の幹から出る。これは最初頂生であったものが、熱帯では生長が早く、花穂が下になるかもしれない。

Tapeinochilus ananassae
ジャングルを構成する高木30m以上のものは、フタバガキ科、クワ科、マメ科であるが、特筆すべきは、ジンチョウゲ科の常緑高木ジンコウ(Aquilaria agallocha)の大木があったことで、これはインド東部から東南アジアに分布しており、古来より香料植物としてマレーが主産地となっている。沈香は倒木が水中に埋まり、樹脂が浸出して固まったもので、年代や品質によって沈香、伽羅などと呼ばれ、良質なものは水に沈むので、沈香の名がつけられたものである。沈香はベンジルアセドン、アルコール、テルペンなどを含み、燃やすと特有の芳香を発し、仏教や他の宗教の儀式にも使われてきた。今では日本の香道の主役ともいわれ、正倉院御物の中の蘭奢侍は名木として著名である。織田信長が権力に物をいわせ、これを切り取り、香に用いた話は有名である。薬用としては喘息、冷えなどに効果があり、鎮痛、疲労回復にもよいとされている。


